「脳の可塑性(かそせい)」という言葉を聞いたことがあるでしょうか?
可塑性というのは、何か物に力を加えた時に、元に戻らず自由自在に形を変えられる性質のことです。
実はこれ、物だけじゃなく、人間にも当てはめることができるもの。
ポジティブ思考な人、ネガティブ思考な人など、人ぞれぞれに性質がありますが、そういった思考も、頭の使い方次第で癖づけが出来てくるんです。
私たちの脳に備わっているこの可塑性という性質をうまく利用して、もっと快適に、幸せに生きるためのコツについて考えてみました。
脳の可塑性って?
脳の可塑性、正確には「脳神経の可塑性」なのですが、「脳の神経細胞群が新たなネットワークを築き、生まれ変わること」を言います。
神経伝達をする脳の細胞と細胞とを繋いでいる“シナプス”という部分は、学習や経験などの刺激が加わることによって、その形を変えていきます。
しかも、繰り返し同じことを学習したり経験したりすることで、一時的な変形ではなく、変形したままの形が定着していくんです。
粘土を指でぐにゅっと押すと、元の形には戻らずに指の跡が残ったままになりますよね。(あとハンバーグのタネとかも)
ちょっとオーバーかもですが、それが脳でも起こっていると考えれば分かりやすいでしょうか。
脳の回路は、何度も繰り返し使われる場所だけが、だんだんと癖づけられて働きを強くしていきます。
なので、何に注目して、どんな考え方をするか?はめちゃくちゃ大事。
それによって脳の神経回路や機能、構造は変えられるので、否定的な考え方ばかりしていればどんどん否定的になるし、逆に肯定的な考え方が多ければ、より肯定的に物事を考えやすくなる、ということですね。
「あなたの思考はあなたになる」は脳科学的にも正しかった
突然仏教の話に触れますが、ブッダの言葉にこんなものがあります。
人は
われはこれこれのものである
と考えるその通りのものとなる。
それと異なったものになることをは、
あり得ない。
もっと簡潔に言うと、「あなたの思考はあなたになる」ってことですね。
「思考は現実化する」なんて言葉もよく聞きますが、意味合いは同じ。
マザーテレサも
思考に気をつけなさい、それはいつか言葉になるから。
言葉に気をつけなさい、それはいつか行動になるから。
行動に気をつけなさい、それはいつか習慣になるから。
習慣に気をつけなさい、それはいつか性格になるから。
性格に気をつけなさい、それはいつか運命になるから。
と似た名言を残しています。
確かにその通りだよな、とすんなり納得できそうな言葉ですが、ただ哲学的・宗教的な教えというだけではありません。
脳神経の可塑性を考えると、「あなたの思考はあなたになる」は、科学的にも実証されているものでもあったということです。
脳の可塑性をうまく使って、心地よく生きる
そうは分かっていても、癖づけできる位いつもポジティブな、建設的な考え方ができていたら苦労ないわ。って感じだと思います。
だったら、どうすれば良いのでしょうか?
そもそも、どんな思考も基本的には無意識に、勝手に湧いてくるもの。
まずは、自分の思考の癖に気づくことが大事です。
そしてこの「気づき」の練習にうってつけなのが、マインドフルネス瞑想の実践です。
マインドフルネス瞑想では、
- 今考えていることに「気づいて」
- それを「否定も肯定もせずに、一旦受け止めて」
- 何に対してどんな感情が湧いてきたのか、考えていることを「明確に捉えて」
いきます。
考えに気づいたところで、マインドフルネス瞑想に集中できずに、「雑念ばっかり浮かんできている私ってなんてダメなやつ…」とイチイチ思っていたら、かえって逆効果。
脳の可塑性が、悪い方向に働いてしまいます。
雑念が出てくるのはごくごく当たり前のことです。(むしろ湧かない方がすごい。)
肝心なのは、その雑念にジャッジを下さない、ということ。
ポジティブに捉えよう!というわけでもなく、フラットに事実だけを受け止めていきます。
もしその思考が何度も何度も浮かんでくるようなら、友達の話を聞くように、浮かんできた思考や雑念の根底にある感情を深掘りして、自分自身の考え方の癖を発見していくイメージです。
マインドフルネス瞑想の時間をちょっとずつ、1日10分でも良いので持って、これを繰り返していくことで、だんだんと浮かんできた考えをフラットに捉える癖がついていきます。
私自身、マインドフルネスを知識として学んだばかりの頃は、「これでストレスが緩和されたり、否定的な考えが減ったりするなんてほんとか?」と思っていた口でした。
1回1回の実践でいくらか頭はスッキリしたけれど、もちろん実践してすぐに、こうした効果が出たわけではありません。
ですが、2〜3ヶ月実践を続けたある時、「なんか最近ネガティブに考えることが減ったかも。」「イライラしづらくなったかも。」とふと気がつく瞬間がやってきました。
それは、マインドフルネス瞑想でいつもやっている「思考・雑念に気付いて」「フラットに受け止める」を、瞑想外の時間でも自然と実践するようになったことで、普段起こる物事に対しての考え方が変わっていったから。
つまり、脳の可塑性をうまく利用できたからだと思います。
本当にちょっとしたことですが、例えば飲食店で店員さんに、気が利かなかったり無愛想な対応をされた時。笑
それまでなら「なんなの?ムカつくな。」と思って少しの間イライラを引きずっていたところ、
マインドフルネスを実践するようになると、「あ、今イライラしてるな私。」と気づき、それを認めた上で、「この人に今さっきこういう対応をされたな。」と、感情と切り離して起こった事実だけをフラットに受け止める、そしてその思考をぽいっと捨てて、過ぎたことではなく目の前のことに意識を向けていく…といったことが、かなりしやすくなりました。
もちろん、いついかなる時でも100%感情に振りまされない、というわけではありません。
ただ、否定的な考えにいつまでも引っ張られることがぐんと減ったので、心が軽くなり生きやすくなったなあという実感を持っています。
哲学的な考え方をすることも時には大事だなと思うのですが、私個人としてはそれだと習慣にしたいことがなかなか続きません。笑
それよりも、エビデンスがあるものの方が腑に落ちるし信頼できると感じるタチなので、脳科学に基づいた人間の性質を知ること、それに裏付けられているマインドフルネスの体験を深めていくことを、とても面白いなと感じています。
マインドフルネスはスキルであり、体験です。
どうせなら、これを読んで「脳の可塑性」という存在を知ったあなたにも、マインドフルネスが脳に与える影響を、あなた自身が実践しながら確かめてみてほしいなと思います。